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絵本「木の音をきく」の作者リーッタ・ヤロネン
2012.10.2
リーッタ・ヤロネン(1954~)は、フィンランドのユヴァスキュラで高校卒業まで過ごし、その後、タンペレ大学で文学を学びました。新聞記者として勤務したのち、1990年にEnkeliyot(天使の夜)で作家としてデビューします。この作品がトペリウス賞等を受賞し、4か国語に翻訳され、作家として初めから注目されたのです。この後、作家活動に専念し、児童書も大人の読み物も執筆しています。
自宅があるのはフィンランド南部のハメーンリンナ。この市は、作曲家シベリウスの生誕地としても有名です。静かな住宅地に、夫で同じく作家のオッリ・ヤロネンと暮らしています。1979年生まれの娘もいます。
2004年にフィンランドで出版された「木の音をきく」(日本語版・猫の言葉社刊)は、父親を亡くした少女のお話です。お母さんと二人暮らしになり、遠い町へ引っ越すことになります。木に抱きつくと、お父さんにだっこしてもらったときのことを思い出すのです。さびしさとは何か? 死とは何か? 最初から最後まで少女自身が語ります。
さびしさをいちばんたくさんかんじるのがどこか、
そこまでわかる人はいない。
おかあさんにも、さびしくかんじるところがあるって、
わたしをだっこして、話してくれた。
わたしはなにもいわないで、きいていただけ。
だっこされていると、なぜだか、
さびしくかんじるところが、だんだん小さくなっていく。
(「木の音をきく」より、稲垣美晴・訳)
「死と子供を結びつけるのは、難しいテーマとされていましたね。でも、私は、この本に、子供の悲しい感情だけを描いたのではなく、すべての読者のために、大人にも子どもにもですが、『思い出は決してなくならない』と、励みになる考えを書きました。それが、このお話に光明と未来への展望を織り込んでいると思います。過去に戻って落ち込むのではなく、少女の新しい生活の始まりなのです」と、リーッタは言います。
2004年、「木の音をきく」は、フィンランドで一番注目されている文学賞、フィンランディア・ジュニア賞を受賞しました。ハメーンリンナ・ミニシアターでは、この劇の公演がありましたし、北欧各国のテレビは、これを原作とする映画(ラウラ・ヨウツィ監督、Zodiak Finland)を放映しました。これも感動的な映画に仕上がっています。本は、スウェーデン語、ドイツ語、フランス語、リトアニア語、韓国語、ポーランド語、中国語、エストニア語に翻訳されています。
「木の音をきく」は絵本3部作の1作目です。この3部作について「言葉と絵で表現された悲しい気持ち――身内を亡くした子供の経験について」という博士論文を書いた人がいます。小学校の先生であり、文学の研究者でもあるミルヤ・コッコです。彼女自身、10年ほど前、第二子が死産だったとき、赤ちゃんの誕生を待っていた長女にどう話したらいいか戸惑いを覚えたという経験があったのです。
ミルヤ・コッコが小学校の授業で「木の音をきく」の読み聞かせをしたとき、途中で説明を挟むと、「説明はいらないから、お話を続けて読んで!」と生徒たちが言ったそうです。高校の授業でもこの本を読んでいたとき、途中で授業終了のベルが鳴ったら、「最後まで読んで!!」と、生徒たちが強く望んだそうです。
私もこの本に魅了された一人です。フィンランドの絵本を読んで涙がこぼれたのは初めてのことでした。「本物は子供にも伝わるわ」というリーッタ・ヤロネンの言葉を信じ、日本でも多くの皆様に読んで頂くことを願うばかりです。(稲垣美晴・記)
(この記事の文章および写真を無断で使うことを禁じます。© 猫の言葉社)