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セラミック・アーティスト ヘルヤ・リウッコ=スンドストロム
2011.3.30
ヘルヤが仕事をする場所は、ヘルシンキにあるアラビアのアトリエと、フンッピラにあるアトリエ・ヘルヤです。後者は陶芸家の友人オッリ・ヴァサとヘルヤ自身の設計によるもので、白い花と白樺のモチーフが建物と見事に融合した素晴らしい建築物です。遠くから観光バスでこのアトリエを見学に来る人たちもいるほどです。ヘルヤは、孤独を愛する芸術家タイプではなく、一般の人たちともごく普通につきあえる気さくな人ですから、アトリエ・ヘルヤを訪れる人たちに、いつも楽しそうに自作の解説をしています。
ヘルヤがアラビア社に入社した1960年代には、フィンランドのデザイン界をリードするカイ・フランク(1911‐1989)がアラビア社のアート・ディレクターでした。その他にも、ヘルヤの仕事を高く評価してくれたビルイェル・カイピアイネン(1915 – 1988) や、キュッリッキ・サルメンハーラ、トイニ・ムオナ等フィンランドの工芸史に名を連ねる陶芸の大家たちが勢揃いしていました。ヘルヤは、大先輩の作品を憧憬の念を持って見ていましたが、一流のアーティストが創作する一点物はとても高価なため、フィンランドを訪れる国賓への贈物になるか、公共施設に買い上げられるかのどちらかでした。
このことにヘルヤは疑問を抱いたのです。「高くなければ、きれいなものを、自分の家に飾りたいと思う人はたくさんいるはず。普通の人たちが買える値段のものを作りたい」と思うようになり、カイ・フランクに伝えました。そして、アラビア社で、次から次へと独自の技術を開発して、大量生産できる陶芸作品を作り出したのです。
およそ50年の間に、ヘルヤは陶芸でさまざまなものを作りました。ブローチ、時計、人形、動物や天使のフィギュア、マグカップ、陶板、ディナーセットTuuli(風の意味)等。フィンランドの風景や動物をモチーフにした、ヘルヤの優しく美しい世界は根強い人気があり、フィンランドのほとんどの家庭に、何かしらの作品があるといっても過言ではありません。まさに、ヘルヤの考えていたことが実現したのです。
工業デザインの他に、大きな立体像やモニュメントもたくさん制作しました。ラッペーンランタ市のサンモンラハティ中学の壁にある陶板モニュメント「自然界の学校」(1991年)は、縦3m×横9mの大きさです。この作品では、サイマー湖にはアザラシの学校、空にはツバメの学校、森にはクマの学校があり、鳥と動物達がそれぞれ教科書を見ながら勉強しています。「学校では知識を教わるけれど、その知識と想像力が一つになってはじめて、生徒達は学んだことを自分のものにできる」というのが、ヘルヤの考えなのです。
ヴァンター市のペイヤス病院には、高さ2.6mの「人生の階段」(1993年)という立体像があります。この作品でヘルヤは、初めて磁器と陶器の素地の両方を使いました。この病院には、壁面モニュメント「幸福者たちの島」(2007年)もあります。病院の待合室で、いつも慣れ親しんでいるヘルヤの作品を見ていたら、どんなにか気持ちが安らぐことでしょう。
ヘルヤの「青」はとてもきれいです。見ているうちに、深い紺碧に吸い込まれそうになります。ヘルヤの「青」は静寂であり、無限であり、郷愁であり、そして、時には、童心でもあります。ヘルヤの作品がどれもフィンランド人にとって、大切な心の癒しになっていることは、改めて言うまでもありません。(稲垣美晴・記)〔本ホームページ上の文・及び画像の無断転載を固く禁じます。〕