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「オーロラの雪」
2013.2.3
雪におおわれた町・畑・森、凍りついた湖、とつぜん空に踊り出るオーロラ……
「オーロラの雪」(リーッタ・ヤロネン文、クリスティーナ・ロウヒ絵、稲垣美晴訳)には、北欧の冬景色がとても美しく描かれています。「オーロラの雪」の雰囲気にぴったりでしょと、作者のリーッタが、最近撮った自宅の写真を送ってくれました。リーッタが住んでいるハメーンリンナは、フィンランドでも南の方ですが、こんなに雪がつもっています。
「オーロラの雪」は「木の音をきく」の続編です。「木の音をきく」で、お父さんを亡くした少女は、最後に、おかあさんと一緒に遠い町へ引っ越すことになります。「二人の新しい生活を心から応援します」と感想を寄せてくださった読者もいました。他にも、引っ越した町でどうしているかしらと、主人公のその後が心配になった読者もいるのではないでしょうか。
「オーロラの雪」では、クリスマスの前の日に、少女サリが一人でスキーに出かけます。うちを出て2~3時間すべっていたでしょうか、畑を越え、湖を越え、森まで行ってきます。「森にいる人間は私だけと思うと、サリはいい気持ちになった」のです。一人きりになって自分を取りもどし、心の平安を得たのでしょう。「木の音をきく」の頃は、「おかあさんが仕事から帰るまで、何時間も一人ぼっちだ」と、さびしさをこらえるのに精一杯でしたが、「オーロラの雪」では孤独という快感を楽しむ姿が見られます。新しい土地で心の赴くままに散策し、心の拠りどころとなるものに出会うサリを見ると、読者はほっとすることでしょう。
リーッタ・ヤロネンの2作品を訳して感じたのですが、彼女の描く母親像はとても素敵です。毛糸の手袋にできた毛玉を集めてきれいな飾りを作ったり、岩に「おかあさん岩」と名づけたり。それに、植物の名前を全部知っているのです。「主人公サリの母親のモデルは、あなたなの、それとも、あなたのお母様なの?」とリーッタに尋ねたところ、次のような返事が返ってきました。
「私は子どもの頃、よくスキーをしたわ。かなり長い距離をすべったの。そういうときに、手袋の中にできた毛玉を集めていたのよ。一度スキー大会に出たこともあったけど、そのとき、男の子たちより早くゴールしたから信じてもらえなくて、私だけもう一回やり直しをさせられたの。そうしたら、やっと認めてもらえた!
植物採集は私の母の趣味。家族でドライブしているときに、車の窓から母が何か珍しい植物を見つけると、それを採集するために、父は車を止めなくてはならなかった。うちの車の後部には、父が作った押し花用の器具がいつも積んであったのよ。だから、私が学校に提出した植物標本は特にすばらしかった! なにしろ母は草花から石の上のコケまでなんでもよく観察していたわ」
こういう話を聞くと、豊かな自然体験ができるフィンランドの人たちをうらやましく思います。そして、そういう経験に裏打ちされたリーッタ・ヤロネンの作品に、改めて文学の力を感じます。「木の音をきく」と「オーロラの雪」は、フィンランド文学の名作として末永く愛読されるでしょう。
(稲垣美晴・記)
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