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ヘルヤの絵本デビュー作「いつまでも大切なもの」
2014.6.30
ヘルヤ・リウッコ=スンドストロムの美しい陶板絵本3冊目ができました。小社の刊行順では3番目ですが、実は、この本がヘルヤの絵本デビュー作なのです。フィンランドで1977年に出版された本が37年たって蘇りました。これまでのうさぎが主人公の絵本とは少し趣が違い、とても静かで美しく、穏やかな気持ちになれる本です。
この本には、3つのお話が入っています。
「ぬいぐるみの涙」
子どもたちに相手にされなくなったぬいぐるみたちは、町を出ていきますが、生まれかわる夢を見て、やさしさの種を育てる役割を思い出します。
「青い天国へ行った猫」
老いて疲れた猫はソファーに乗り、空を飛んで天国へ行きます。いったい猫の天国とは、どんなところでしょう?
「すてられた洗濯機」
全自動の洗濯機を買った家族に見放された古い洗濯機は、赤ちゃんのいる家族に拾われ、働き者として大活躍します。
「相手にされなくなった…」「すてられた…」
いったんは悲しい思いを味わったものが、再生されて活躍の場を得るというテーマです。「青い天国へ行った猫」の話では、猫を天国へ運ぶことになったソファーが「もう、役立たずの老いぼれソファーじゃないな」と、大事な役割を担うことになった喜びを表現しています。
この本が、フィンランドで出版されたとき、読者から大きな反響がありました。何かで失敗した人、退職して目標を失った人などから「励まされた」「癒された」という感想がたくさん寄せられたのです。はからずも大人の読者を多く獲得しました。
最近は、ペットロスという言葉を時々耳にします。「ペットを失うこと」という意味ですが、ペットとの別れに耐えきれず、心身を病んでしまうこともあると伺っています。ペットが亡くなったとき、「青い天国へ行った猫」を子どもたちに読んであげるのもいいと思います。私は今年、母を亡くしましたが、このお話を読んで、天国へ行くと、こんなにふわふわなまくらで幸せに眠れるんだと思うと、恐れることなく死を受け入れられる気持ちになり、悲しみも緩和されました。
「いつまでも大切なもの」は、年齢によってさまざまな読み方ができるでしょう。「やさしさ」というヘルヤの原点が詰まった本を皆さんにお届けできて、大変うれしく思います。(稲垣美晴・記 この記事と画像の無断転載を禁じます)