ピックアップ
ぐっすりメーメさんの歴史
2009.11.1
ぐっすりメーメさんが、マウリ・クンナスの本に初めて登場したのは、「ナイトブック–夜、おきていたら…?」(1985・偕成社・稲垣美晴訳)でした。表紙を見ると、小さいながらも中央に、ぐっすりメーメさんがいます。これは、朝刊を配る新聞配達に「やあ、グッスリ=メーメさん、きれいな月ですね。」と、挨拶される場面です。
「ナイトブック」では、「おやおや グッスリ=メーメさんは、ねむりながら 町へでてきました。」と紹介され、町の中をあちこち散歩するのですが、さすがに、飛行場の滑走路をぶらぶらしたときには、係員がびっくりして、捕まえようとしました。
そして、とうとう朝になり、メーメさんは自分のベッドで目を覚まします。
「どうして、ぼくの足は よごれているのかな?」
セリフは、これだけです。このときの名前は、グッスリ=メーメさんでした。
新聞社の仕事を詳しく紹介する「やったね! 大スクープ!!–新聞が出来るまで」(1991・偕成社・稲垣美晴訳)に登場したときは、ハッカライネンという名前(本名?)を使っています。何しろビーグル新聞編集局の文化部長ですから、いでたちもスーツ姿。映画、演劇、オペラ等を鑑賞して批評を書きました。
「やったね! 大スクープ!!」には、付録にビーグル新聞がついています。文化欄にハッカライネン部長の美術批評が掲載されていますので、ご紹介しましょう。「やすらぎ」という題名の絵の批評です。
「ラッシュ氏の油絵は、ますいちゅうしゃのような力をひめている。ラッシュ氏の自由な色づかいと筆づかいは、あたかも、あったかいミルクのようだ。
展覧会のなかでいちばんすぐれた作品は、なんといっても、催眠術をかけるような魅力にあふれた『やすらぎ』だろう。このけっさくは、みる者をとらえてはなさない。かくいうわたしも、この絵の前にくぎづけになり、1時間ほどぐっすりねむってしまった。–ハッカライネン」(稲垣美晴訳)
ハッカライネン部長(ぐっすりメーメさん)の面目躍如ですね。
「大時計のおばけたち」(1997・偕成社・稲垣美晴訳)では、登場人物の紹介ページに「グッスリ=メーメ」と、きちんと紹介されていますが、話をする場面はひとつもなく、ただ歩いている姿が4箇所あるのみです。しかし、裏表紙に特別扱いされているのを見ると、作者クンナスの愛着が伝わってきます。
そのうち、「ぐっすりメーメさん、ここにもいるね」と、子供たちが本の中のメーメさんを探すようになり、主人公ではないけれど、常に読者の気になる存在になりました。もはや、ぐっすりメーメさんは、フィンランドで大人気。マウリ・クンナスの故郷ヴァンマラには、「ハッカライネンさんの家」(Herra Hakkaraisen talo)が建てられました。そこには、クンナスの絵本の世界を楽しめる部屋やキャラクターグッズ(ぐっすりメーメさんのジュースもあるんですよ!)の売店があり、時々作者のサイン会も行われています。
タッスラ・シリーズには、タッスラという町に住む人たちの楽しい生活が描かれています。このシリーズを読むと、ぐっすりメーメさんには、おばさんが7人いることがわかります。もちろん、おばさんたちも皆、夜のお散歩が大好き! 7人姉妹の行列散歩は見事です!
「わすれられないクリスマス」(2008・猫の言葉社・稲垣美晴訳)は、タッスラ・シリーズの第3作目。ぐっすりメーメさんの夜のお散歩のお蔭で、何をもらっても喜ばなかったお金持ちのお坊ちゃまオンニ君が、「このプレゼント、最高!」と大喜び。ぐっすりメーメさんが大活躍でした。
「ぐっすりメーメさん、夜のおさんぽ?」(2009・猫の言葉社・稲垣美晴訳)では、とうとうメーメさんが主役になります。テレビのニュースに出たり、市長さんから表彰されたり、ぐっすりメーメさん大躍進の巻です。この本で明らかになるのは、モルモットのマサと暮らしていることと、ぐっすりクレークラさんというガールフレンドがいることです。
最初の頃の絵と比べると、少しずつメーメさんの容姿が変わってきたことにお気づきになるでしょう。月明かりをバックに、ますます洗練された寝巻き姿でお散歩するぐっすりメーメさん、なかなかステキですね! (稲垣美晴・記)
(この記事の文章および画像を無断で使用することを禁じます。(C)猫の言葉社)