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オイリ・タンニネン作「ヌンヌ」
2009.4.16
あすなろ書房から「ヌンヌ」(オイリ・タンニネン作、稲垣美晴訳)が出版されました。「ヌンヌ」シリーズは、フィンランドで1965年66年69年に刊行され、その3冊が合本として2007年に復刊されました。復刻版が出版されるやいなや、レトロが歓迎されるこの時代、タンニネンの個性的なコラージュは、フィンランドだけでなく、諸外国からも注目され、すぐにドイツ語とイタリア語に翻訳されました。
あすなろ書房の「ヌンヌ」は、1965年初版の1冊目の「ヌンヌ」です。眠る人のお手伝いさんヌンヌ、起きる人のお手伝いさんホップ、ちょっぴりへそまがりのモックが活躍します。プリッリ博士の昼寝のお手伝いをするはずなのに、ヌンヌがいつまでも起きません。さあ、どうなるのでしょう・・・・・・
タンニネンは「ヌンヌ」で、紙を切ったりちぎったりして貼り付け、それに、線画を施すという技法を用いています。フィンランドで、モダンな絵本作りをした最初の作者といえるでしょう。使っている色は限られているのに、とても印象的。それに、ヌンヌの愛らしさといったら、大人も虜になりそうです。それから、プリッリ博士の髭(線画)の見事なこと!
子どもの頃から物語を書いたり、絵を描いたりするのが好きだったタンニネンは、ソ連との間に冬戦争(1939年11月~1940年3月)が勃発した6歳のときに、防空壕の中で、絵を描いて怖さを払拭したそうです。ヌンヌのかわいい表情からは、とても想像できないような経験の持ち主でもあるのです。
フィンランドで復刊されたときの書評を見ると、60年代のキーワード「サイケデリック」という見出しが躍っています。「『ヌンヌ』は決して古びない。大人は、空想的な色彩世界に、子どもは、ファンタスティックなかわいい登場人物たちに、魅了される」(メイダン・ペルヘ誌)そして、「全く自由な発想で、巧妙にお話が進んでいき、次に何が起こるか予想がつかない」(イタ・サヴォ紙)と、奇想天外な面白さも評価されています。
タンニネン自身は、自作についてこう語っています。「物があふれ、暴力を娯楽としているこの時代の子ども達にとって、本当に必要なもの、温かさ、ユーモア、思いやりを、私の本から見出してくれたらと願っています」(1990)
タンニネンは「ヌンヌ」のアニメも手がけました。その制作をしたのは、夫アールネ・タンニネンが日刊紙ウーシ・スオミの特派員として、一家でロンドンに住んでいたときです。アールネ・タンニネンの回顧録を読むと、オイリが、どんなアトリエで、どんな風に仕事をしていたのかがよくわかります。
「ヌンヌ」の中で、ヌンヌたちは木に住んでいますし、きれいな卵を産む鳥ヘプスケプスたちもたくさん木にとまっています。オイリ・タンニネンが、これらの木と重ね合わせて心の安らぎとしていた木が、どこにあるか、わかりました。ロンドンにあるハムステッド緑地公園。週末よく家族で遊びに行ったその公園に、ヌンヌたちが住んでいそうな木があるのです。たくさん木のある緑地公園の中のどの木が、ヌンヌの眠る「夢の木」か、オイリ・タンニネンは言い当てることができるそうです!(稲垣美晴・記)
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