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「ふしぎなボタン」の作家と画家
2010.9.21
「ふしぎなボタン」(原題Ihmeellinen nappi )は、2004年にフィンランドのLasten Keskus社から出版されました。
文を書いたミルヤ・オルヴォラは、インテリア・デザイナ-です。夫でガラス・デザイナーのヘイッキ・オルヴォラとヘルシンキに住んでいます。作家としては、1969年に絵本Kekkamu (挿絵はセッポ・ヤルヴィネン) でデビューしました。イラストレーターのサッラ・サヴォライネンと組んで作った絵本は、Elmeriと本書の2冊です。
Elmeriという絵本は、エルメリという名前のホームレスの男の人が主人公。妻が病気で亡くなった後、二人の息子が残されましたが、やがて自分も病気になり、職も住まいも失います。親戚に預けて育ててもらった息子たちともずっと会っていません。駅でたまたま知り合ったミスカという女の人が、エルメリのことを心配して息子たちを見つけ出し、再会の段取りをつけてくれます。久しぶりに「お父さん」と呼ばれたエルメリは大感激。これがきっかけで、息子や孫たちと好きなときに会えるようになります。
この本は、社会問題を扱ったテーマが注目され、その年のフィンランディア・ジュニア賞の候補にもなりました。ミルヤ・オルヴォラは、「フィンランドは遠い国を援助しているけれど、個人的には、苦しんでいる隣人を助けることも大事」と提言したかったのです。
「ふしぎなボタン」は、穏やかな海のそばにある穏やかな村のお話です。この本を作るとき、ミルヤはイラストレーターのサッラに、ボタンは、絵の具で描くのではなく、粘土で作ったほうがいいと勧めました。そして誕生したのが、美しいボタンの数々です。本の見返しに、ボタン職人(?)サッラの作ったきれいなボタンが並んでいますが、思わず見入ってしまいます。
これまでフィンランド・アートをリードするデザイナーとして歩んできたオルヴォラ夫妻ですが、ミルヤは「ふしぎなボタン」を通して、技術を磨くことの大切さ、そして、伝統が世代から世代へと受け継がれていくことを伝えたかったのでしょう。
挿絵を担当したサッラ・サヴォライネンは1962年生まれ。秘書の仕事を経験した後、美大に入り、美術の先生になる勉強をしました。しかし、結局、先生にはならないで、本や教科書の挿絵を手がけるようになります。そして、2000年に絵本作家としてデビュー。第1作目は、フリーマーケットの買物が大好きなママについていき、犬のぬいぐるみを手に入れた女の子のお話です。これはサッラがお話も書きました。
それ以来、絵本をたくさん作り、2005年には、中国からフィンランド人の家庭に養子に来た女の子が主人公の絵本(文はレーナ・ヴィルタネン)で、ルドルフ・コイヴ賞を受賞します。2010年には、国際アンデルセン賞画家賞のフィンランド候補になりました。今やフィンランドで大人気のイラストレーターです。
サッラは、日本に興味を持ち日本語を独学している高校生の娘と、ご自慢のブルドックといっしょに、フィンランドのカルッキラに住んでいます。「ふしぎなボタン」のために作った粘土のボタンを、テーブルに並べて見せてくれました。どれも手の込んだ細工が施されていて見事です。王女マリアが名人からもらった「ふしぎなボタン」のなんと大きいこと!!
サッラは、今年の新作で木版に挑戦しました。作品によって、いろいろなテクニックを試みるサッラの絵本は、これからも読者を楽しませてくれることでしょう。(稲垣美晴・記)
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