ピックアップ

はじめに戻る

「フィンランド語は猫の言葉」今・昔

2008.10.10


文化出版局から単行本「フィンランド語は猫の言葉」が出版されたのは1981年11月のことです。当時はフィンランドといっても、日本では全く未知の国でした。そこで、本書は、珍しい国のレポートとして、語学に興味を持つ人たちだけでなく、広く一般の方々に読まれました。まず、朝日新聞にこういう記事が載りました。

「フィンランドといえば、『森と湖の国』。しかし、この北欧の国について、それ以上の知識を持つ日本人がどれだけいるだろう——こんな思いから、稲垣美晴さんは『フィンランド語は猫の言葉』を著した。昨年まで約3年間の現地での留学体験を、エッセー風にまとめたもの。肌身で触れたフィンランドの人と言葉を紹介する本は、日本ではこれまで、まずなかったという。
東京芸大の卒論のテーマにフィンランドの美術を——と、1976年夏、ヘルシンキに2ヶ月間滞在したのが、“病みつき”になるきっかけだった。同国の美術についての研究は日本ではあまり行われておらず、稲垣さんを同国に誘ったのも、もとはといえば実は音楽、かの舘野泉氏のピアノによるシベリウスなどだったのだが、かの地で暮らしてみると“透明感のある自然や素朴な人たち”——つまり、東京にはないあれやこれやに、強くひきつけられた。
翌春、再び渡航。国民的大画家、アクセリ・ガッレン=カッレラに関する論文を書くため、ヘルシンキ大学でフィンランド語の勉強を本格的に始めた。
・・・・・・・・この本から受ける印象は「刻苦勉励」とは別のもの。お得意の作文の話、友人や教師達とのつきあいのエピソード、故国を一人離れた自分の心理状態の観察など、そこここに、持ち前の茶目っ気とユーモアのセンスがあふれている。・・・・・・・読み終わると、この遠い国が、少し近くなったような気にさせられる。」——朝日新聞1981年11月17日

当時の書評を他にもご紹介します。

「森と湖の国、白夜やサウナの国として知られるフィンランド。だが、その湖が6万数千もあり、日本と同じ面積に人口は約470万人しかいない、といった事実はほとんど知られていない。東京芸大で美術を学んでいた著者は同国の美術にひかれ、留学する。合計3年間の留学で体験し、見聞きした同国の大学生活、人々の暮らしや自然をレポートしたのが本書。Rの発音や長たらしい人名に悩まされたこと、相槌が『ニーン』と猫みたいで戸惑ったことなどが茶目っ気たっぷりに書かれていて特殊語の同国語を習得するまでの奮闘ぶりは楽しく追体験できる。」——北海道新聞1981年12月1日

「フィンランド語に魅せられたひとりの若い女性の、フィンランド留学中のさまざまなエピソードが愉快に描かれています。
フィンランド語が著書の中心になりながらも、生活様式や文化など、私達日本人にとっては『おとぎのくに』のような北欧世界のことが紹介されています。
森と湖の国・フィンランド。暗く雪におおわれた厳冬、人々がうかれだす白夜の夏。フィンランドの大学生活。フィンランド語修得の苦労や笑い話——。
『・・・フィンランド人がカンニングをして、すぐ大学から追放された。・・・日本の大学職員が入試に不正をしたというニュースをヘルシンキで知って、私は心を痛めた』
など、日本の『後進性』もチクリ。
フィンランドの生活ぶりがわかる楽しい本です。」——赤旗1981年12月27日

「コーヒーがカップの受け皿にこぼれることはよくあることである。そのままにしておくと飲むたびにカップの底からたれてくる。こんなとき、フィンランド人なら、こぼれたコーヒーをカップにもどして飲む。皿はきれいに洗ってあるのだから別に不潔ではない。それどころか年寄りなどで熱いコーヒーの嫌いな人はわざわざ受け皿にあけて飲むのだそうである。『フィンランド語は猫の言葉』は日本人にはちょっと珍しく見えるこんなフィンランド人の生活ぶりを随所に見せてくれる。
著者の稲垣さんは東京藝術大学在学中にフィンランド政府から奨学金を受け、ヘルシンキ大学に留学した女性である。その留学記であるこの本を読んで感じるのは一人の若い日本女性に対するフィンランドの人たちの温かさである。彼女は北欧のこの国が好きになり、『これからはフィンランドと日本を結ぶ架け橋になれればいい』と願う。そして、この本は立派に『架け橋』第1号になっている。
ところで、稲垣さんは自分のことを『さしずめ激芬家(げきふんか=激しくフィンランドのことをやる人)というようなところでしょうか』と本のあとがきに書いている。日本にも各国から多数の留学生が来ているが、『激日家』とはいわないまでも日本を好きになって帰ってくれているだろうか。国と国とのこれからの相互理解にはこうした若者が一人でも増えることが何よりも役に立つ。」——日本経済新聞1982年1月20日

その後、講談社文庫から文庫版が出版されましたが、最近は入手困難な状況が続いていました。本書の復刊を望む声が多く、とうとう猫の言葉社が新装版を刊行する運びとなりました。本が産声をあげてから27年たった現在、日本においてフィンランドは、教育をはじめさまざまな分野で注目される国になりました。

『家庭画報』2008年9月号には、新装版が紹介されました。

「フィンランド語を習得していく著者の奮闘ぶり、フィンランド語の成り立ちなどが軽妙な筆致で綴られ、古さを感じさせない。明るく前向きな著者の生き方にも共感が持てる。」

神奈川新聞にも書評が掲載されました。

「イケアの家具、マリメッコのバッグ、映画『かもめ食堂』・・・フィンランドが静かなブームだ。今、50代半ばの著者が若き日、フィンランドのヘルシンキ大に学んだ留学記。
当時、かの国でフィンランド語を学ぶのは、杉田玄白らが蘭学に挑んだのと同じような状況だったとか。そのなかで著者は積極性と明るさで友達を作り、フィンランド文化を吸収する。
笑わせながら、時に興味深い比較文化論を展開。日本でにわかに注目を集めているフィンランドの教育システムの根源には『何事もやり直しが利く』という国民性があると説く。
27年前に好評を得た本の復刊。」——神奈川新聞2008年5月18日

(この記事の文章および画像を無断で使用することを禁じます。(C)猫の言葉社)

このページの先頭へ